東京地方裁判所 昭和60年(ワ)3695号 判決 1988年4月15日
原告 甲野花子
<ほか二名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 鶴田岬
同 高野康彦
被告 甲野一郎
右訴訟代理人弁護士 小島竹一
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告らに対し、別紙物件目録記載の建物のうち別紙図面の赤斜線部分を明渡せ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 1項につき仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)は、もと亡甲野太郎(以下「亡太郎」という)であった。
2 亡太郎は昭和五七年一一月一〇日死亡し、その妻原告甲野花子(以下「原告花子」という)、長女原告乙山春子、長男被告、次女丙川夏子、次男甲野二郎、三女丁原秋子、三男原告甲野三郎(以下「原告三郎」という)が相続し、遺産分割協議の結果、原告花子が三二分の一六、原告春子、被告及び原告三郎が各三二分の三、丙川夏子、甲野二郎及び丁原秋子が各三二分の二の持分で本件建物を共有している。
3 前記共有者らは昭和五八年四月一八日、本件建物の使用収益の方法につき協議し、被告が本件建物の二階部分である別紙図面赤斜線部分(以下「本件建物二階部分」という)二階部分を使用し、原告花子及び同三郎が一階部分を使用することに決定した。そして、被告は本件建物二階部分に居住し、これを占有している。
4 本件建物二階部分への被告の居住は、もともと被告とその妻冬子(以下「被告夫婦」ともいう)が亡太郎及び原告花子と同居して亡太郎ら夫婦の日常の家事をすることを条件としていたものであるところ、亡太郎の死亡後も従前どおり原告花子のために日常の家事をすることを条件としていたものである。
ところが、被告夫婦は原告花子に対して充分な世話を行わず、度々、「今後一切面倒はみない」などの発言を繰り返し、昭和五九年三月二一日には原告花子のための日常の家事の遂行を放棄した。
5 そこで、前記共有者らは昭和六〇年三月二二日、本件建物の使用収益の方法につき協議し、持分価格の過半数を有する原告らの一致をもって、民法二五二条の管理事項として、被告の使用を排除して原告花子及び同三郎のみに本件建物を使用させる旨を決定した。
よって、原告らは被告に対し、持分価格の過半数をもってした右の決議に基づき、本件建物の管理行為として、本件建物二階部分の明渡しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項の事実は認める。
2 同2項の事実は認める。
3 同3項の事実は認める。
4 同4項の事実は否認する。なお、被告夫婦は、原告花子に対する世話を誠実に行っていたが、昭和五九年三月二一日、被告にかかってきた電話の取次に対する原告三郎の嫌がらせが原因で、被告と原告三郎が喧嘩状態になった際、原告花子から「ろくな食事も作らないからだ。家を出て行ってくれ」などと言われ、以後、原告花子らに対する食事の仕度をすることを差し控えるようになったもので、掃除その他の日常家事は従来どおり続けて行っている。
5 同5項の事実は否認する。なお、共有物の使用収益につきその方法を変更する場合には、共有者全員の同意によらなければならず、原告らの主張は失当である。
三 抗弁
被告夫婦は昭和四六年三月亡太郎及び原告花子と同居するべく本件建物二階部分に入居して以降現在に至るまで、家族共同体の一員として本件建物で生活しており、また原告花子らの世話も誠実にしてきたものであって、原告らの主張する昭和五九年三月二一日以降被告夫婦が原告花子らの食事の世話をしなくなった原因は前記のとおり原告三郎にあるのであるから、原告らが、それを理由に本件建物の使用収益の方法を変更して、被告に対し本件建物二階部分の明渡しを求めることは権利濫用である。
四 抗弁に対する認否
権利濫用の主張は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1ないし3項の事実は、当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》によれば、原告らは、過半数の共有持分権を有する者として、原告花子及び同三郎のみが本件建物の使用収益をすることにして、その旨を被告に通告し、その後、右決定事項を記載した昭和六〇年三月二五日付の共有物の管理等に関する協議決定書を作成したことが認められる。
三 原告らは、共有物の使用収益の方法を決定することは民法二五二条の管理事項として共有者の持分の過半数によって決せらるべきところ、過半数の持分を有する原告らが本件建物を原告花子及び同三郎のみに使用させることに決定したから、被告に対して本件建物二階部分の明渡しを求める旨主張するので検討する。
本件のように、少なくとも一旦決定された共有物の使用収益の方法を変更することは、共有者間の占有状態の変更として民法二五一条の「変更」にあたり、共有者全員の同意によらなければならないと解するのが相当である。けだし、共有者の意思にしたがって既に共有物の使用をしている場合に、持分価格の過半数で、その者の使用を排除するようなことを認めると、単に金銭的な補償では償われない損失を蒙る虞があるし、また分割請求では使用収益を奪われたことに対する代償を得ることができないことが多いとみられるからである。
従って、原告らは、共有物である本件建物の持分価格の過半数をもって、その使用収益の方法につき、被告の使用を排除して原告花子及び同三郎のみで使用することに変更することは許されないから、本件建物二階部分を占有する被告に対して、その明渡しを請求することはできないものというべきである。
原告らの右主張は理由がない。
四 よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 阿部則之)
<以下省略>